【人事管理】改正個人情報保護法と社員のメンタルヘルス取扱い
1.改正個人情報保護法と健康情報
社員の病歴等の健康情報は、平成29年5月30日施行された改正個人情報の保護に関する法律(以下、個人情報保護法といいます。)で定義が明確化された要配慮個人情報の一つです。
要配慮個人情報とは、人種、信条、社会的身分、病歴等、その取扱いによって差別や偏見、その他の不利益が生じる恐れがあるため、特に慎重な取り扱いが求められる個人情報を類型化したものです。
そこで前回は、採用時の面談における病歴と健康診断結果の取扱いを取り上げました。その続きとして今回は、社員のメンタルヘルスの取扱いを取り上げます。
2.メンタルヘルス不調の社員が人事部に相談した情報を上司に伝えられるか?
人事部や上司の立場にある人が、うつ病などのメンタルヘルスに不調を感じている社員から相談を受けた場合、その社員の状況をどのように管理して労務管理の配慮措置等につなげたらよいのでしょうか。個別的に慎重に配慮措置を取る必要があります。
そもそも企業は、社員が安全な環境で働けるように配慮する義務があります。よって、もしメンタルヘルスに不調を感じている社員に対して、労働時間などの労働環境に配慮をする必要があれば、本人から同意を得たうえで、上司に労働環境で配慮するべきことを伝えます。
この場合、メンタルヘルス不調の状況をどこまで上司に伝えるべきかについても、社員に十分に確認したうえで、不利益が生じないように配慮して上司等に伝えなければいけません。
また、不調を抱えている社員から「死について考えることがある」と申告されたときは、話を良く聴くとともに、精神科の受診を強く勧めることが必要です。
社員が受診を拒んだ場合は、受診命令ができるかどうかについては、過去の裁判例を見ると、受診命令ができる背景には、「健康の早期回復という目的に照らし道理的相当性を肯定しえる内容の指示であることを要する。」とした例 (電電公社帯広電話局事件 最一小判昭和61.3.13)があり、適切な判断が求められます。
そして本人が受診を拒むとき状況によっては、家族に受診を勧めるように話すことも必要になってきますが、この場合も社員から聞いた情報を家族に話すことについて、その社員から同意を得る努力をします。
ただし同意が必要なときの例外として、「人の生命、身体又は財産のほどのため必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき。」がありますから、これに該当するような場合は、同意を取ることに固執せず適切に行動することが必要です。
人事部等は、社員の相談を傾聴し、受診を勧めた結果、社員が受診に対してどういう行動をとったか等、記録をしておくことも必要です。
3.ストレスチェック結果と個人情報保護法
ストレスチェックの実施を委託していている産業医や医療法人も個人情報取扱事業者に該当します。企業がストレスチェック実施嘱託をする産業医に労働者の個人情報を提供する場合は、社員の同意が必要でしょうか。
産業医等が企業からストレスチェック実施の委託をうけ、その実施に必要な範囲で、企業から個人情報の提供をうけることについては、社員の同意は不要となります。これは委託先の産業医等が、第三者に該当しないまたは、ストレスチェックの運営が法令に基づく場合に該当し、社員の同意が不要と解釈できるからです。
では、企業はストレスチェック実施者からストレスチェック結果の提供を受けることができるでしょうか。
これについては、ストレスチェック制度においては、そもそも社員のプライバシーに配慮する等の考えから、嘱託産業医から社員に個人結果を通知しなければなりません。そして、社員の同意がなければ、企業にストレスチェック結果を提供してはならない(労働安全衛生法第66条の10第2項)ことになっています。
詳しくは、雇用管理分野における個人情報のうち健康情報を取り扱うに当たっての留意事項(第2 5 (2))を参照ください。
http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12600000-Seisakutoukatsukan/0000167762.pdf
【コンサルタントプロフィール】
DATE : 2017/10/13