【賃金(報酬)制度】割増賃金の基礎になる賃金について
1. 月定額手当の割増賃金は要注意
大手コンビニ企業が、残業代等支払いに不足があったことを記者会見しました。対象者が多く長年にわたって誤りが続いていたため、支払い不足金額累計金額が大きいことから記憶されている方が多いと思います。
企業のホームページによると、「精勤手当」と「職責手当」に対する時間外の割増賃金に用いる割増率を1.25とするところ、0.25としていた計算が続いていたようです。なお、該当者には追加払いをするようです。
同一労働同一賃金もあって、時間給社員に月額手当を支払うケースが増える昨今、同じ誤りをしないために、同社ホームページから、支払い不足の概要を見てみたいと思います。
同社では、店舗の給与計算をコンビニの本部で計算代行をする際、一般に休まずに出勤した場合や熱心に職務に励んでいた場合に「精勤手当」を、職務の責任等に対して「職責手当」を支給しているようです。
1日8時間または1週に40時間の法定労働時間を超えて働いた場合、労働基準法が定める割増賃金を支払う必要があります。そこで、時間給については間違いなく時間給の1.25倍が払われていました。しかし、月額定額で支払っている「精勤手当」と「職責手当」についても、1.25倍の割増賃金を払わなければならないところを、0.25倍だけ支払っていたようです。
【このケースの時間外割増賃金の正しい算式】
計算例)
労働者とオーナーが所定労働時間を1か月100時間として労働契約を締結していた場合
A+Bが割増賃金になる。
基本の時間給×法定労働時間超の労働時間×1.25=基本給分の割増賃金…A
(精勤手当+職責手当)÷100時間×法定労働時間超の労働時間×1.25=諸手当の割増賃金・・・B
*今回は下線の係数を0.25としていた
以上を見てみると、誤りをしてしまいそうな事例だとわかります。時間給社員に時給とは別に月額の諸手当を支払っている会社では、同じような誤りをしていないか、また、月給制の場合でも、割増単価に諸手当を入れて計算しているか検証が必要です。
2.割増賃金の基礎となる賃金
割増賃金は、言うまでもありませんが労働基準法で定められており、次のように計算します
この算式の「1時間当たりの賃金」は、月給制の場合は、月額基本給と諸手当を含めた月額を1か月の(平均)所定労働時間で割り、1時間当たりの割増賃金の基礎額を算出します。
時間給制の場合は時間給とは別に各種手当の月額を1か月の所定労働時間で割って、各種手当の1時間当たりの割増賃金の基礎額を算出します。
このとき、以下の①から⑦は労働と直接的な関連が薄いとして基礎となる賃金から除外することができます。(労働基準法第37条5項ほか) 逆に言えば、以下のもの以外は割増賃金の基礎に必ず含めなければなりませんから注意が必要です。
① 家族手当
② 通勤手当委
③ 別居手当
④ 子女教育手当
⑤ 住宅手当
⑥ 臨時に支払われた賃金
⑦ 1か月を超える期間ごとに支払われる賃金
ただし、①から⑤の手当については、この名称であれば除外できるわけでなく要件があります。
割増賃金の基礎について詳しくは、厚生労働省のリーフレット等でご確認ください。
https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/kantoku/dl/040324-5a.pdf
【コンサルタントプロフィール】
大関ひろ美
(株式会社ブレインパートナー 顧問)
三重県四日市市出身。
ワンズライフコンパス(株)代表取締役、ワンズ・オフィス社労士事務所 代表。1981年~ 三菱油化(現、三菱ケミカル)株式会社の人事部門に約9年間勤務。1992年社会保険労務士資格を取得(その後特定社会保険労務士を付記)。 1996年~ 外資系生命保険会社ほか勤務、北九州市嘱託職員として介護保険導入に携わる。2001年~ 社会保険労務士事務所を開所独立。
現在は、ワンズライフコンパス株式会社と併設するワンズ・オフィス社労士事務所の代表に就任。2006年パートアルバイト派遣の使い方ここが間違いです(かんき出版) 2013年~雇用形態別人事労務の手続と書式・文例、雇用形態別人事管理アドバイス(共著、新日本法規出版)
DATE : 2019/12/16