【賃金(報酬)制度】残業代単価に用いる月の所定労働時間
1. 残業代の基礎となる賃金
前回のコラムでは、法定労働時間を超える労働や、法定休日または深夜労働を行わせたときの割増賃金は労働基準法で定められており、次のように計算すると説明しました。
今回は「1時間当たりの賃金額」の計算の話です。
月給制の場合、この算式の「1時間当たりの賃金」は、月額基本給と諸手当を足した月額を1か月の所定労働時間で割り算出します(参入しないことができる手当については前回コラムをご覧ください)。
この割り算に用いる1か月の所定労働時間は、会社がその月の出勤日と指定しているか、個別に労働条件通知書で示した日数に1日の所定労働時間を乗じて計算することができます。月給制の社員で例えば、土・日曜日と祝日等を休日としていると、それ以外の平日の日数に1日の所定労働時間を乗じてその月の所定労度時間を算出します。
1日の所定労働時間は、就業規則で定める時間で8時間、短い会社では7時間としているケースが多いです。もしくは、個別の労働条件通知書等で決めるとしている場合は、その1日の時間数となります。
2. 1か月の平均所定労働時間という考え方
その月ごとに月の所定労働日数に1日の時間を乗じて所定労働時間を算出していると、カレンダーの並びによって月の所定労働日数が変わりますから、所定労働時間も毎月変わります。
そこで実際の給与計算においては、施行規則で1年間の平均所定労働時間数で除して計算するようになっています。
月によって定められた賃金については、その金額を月における所定労働時間数(月によって所定労働時間数が異なる場合には、一年間における一月平均所定労働時間数)で除した金額(労基則第19条4項)
例:土日祝祭日休みで8時間労働のケース
2020年であれば、土曜日、日曜日祝祭日、正月3が日、及び12月31日の年末年始を所定休日にし、夏は特定の休みを設定しない場合、年間休日は123日、年間所定労働日数は243日となります。その会社の所定労働時間が1日8時間とすると1か月平均所定労働時間は次の計算になります。
【計算例】2020年の1か月平均所定労働時間
243日【年間の所定労働日】÷12×8時間【1か月の所定労働時間】=162時間
3. 月平均所定労働時間数を就業規則で定めている場合
事例をあげて示したように、毎年計算している事業主と、もっと簡便化するために就業規則または給与規程等で、割増賃金の基礎となる賃金の計算式に用いる時間を定めている場合もあります。
例えば、事例に近い所定労働日を定めている会社では、160時間で除するとしている例を多く見ます。
これは解釈になりますが、実際に計算した1か月の所定労働時間(計算例では162時間)よりも少ない時間数を就業規則等に定めている場合は、本来よりも社員に有利になる計算方法で割増賃金を支払っていることになりますから、問題がないと考えます。
一方で就業規則等の定めが法定の基準を下回っている場合は、法定基準まで引き上げる必要があります。特に近年休日を増やしている事業主は、注意が必要です。1か月の所定労働時間を求める始期を1月としている事業主は、年の初めに検算をしておくことが必要です。
【コンサルタントプロフィール】
大関ひろ美
(株式会社ブレインパートナー 顧問)
三重県四日市市出身。
ワンズライフコンパス(株)代表取締役、ワンズ・オフィス社労士事務所 代表。1981年~ 三菱油化(現、三菱ケミカル)株式会社の人事部門に約9年間勤務。1992年社会保険労務士資格を取得(その後特定社会保険労務士を付記)。 1996年~ 外資系生命保険会社ほか勤務、北九州市嘱託職員として介護保険導入に携わる。2001年~ 社会保険労務士事務所を開所独立。
現在は、ワンズライフコンパス株式会社と併設するワンズ・オフィス社労士事務所の代表に就任。2006年パートアルバイト派遣の使い方ここが間違いです(かんき出版) 2013年~雇用形態別人事労務の手続と書式・文例、雇用形態別人事管理アドバイス(共著、新日本法規出版)
DATE : 2019/12/23