コンサルタントコラム

【人事管理】社員から自転車通勤の申し入れがあったとき

新型コロナウイルス感染防止等でテレワークを継続している企業もありますが、テレワークがなじまない職種や、週のうち一定の日数は事業所へ出勤することとしている企業があります。そこで今回は、社員が、事業所に出勤する日は、「できるだけ人込みを避けたいので電車通勤をやめて自転車通勤をしたい」と申し入れてきたとき、どのような対応が必要になるかを考えます。


1. 通勤手段の自由

まず、使用者は通勤手段を指定できるかどうかを考えてみます。使用者が、労働者の労働義務遂行について有する指揮命令の権利は労働者指揮権と称される。(菅野一男「労働法第11版」149ページ)ということから解釈すると、労働義務を遂行する前後の通勤については、使用者の指揮命令権は及んでいないと考えられます。そうしますと、相当危険が伴う場合や、通勤で体力を消耗して労働の遂行に支障がでるようなことがない限り、社員はどのような手段を使って通勤をしてもかまわない。と解釈することができます。


2. 通勤災害について

次に、自転車通勤をする社員が、通勤の途中でけがを負った場合は、労災保険法の通勤災害の補償対象に当たるかどうかが気になるところです。

通勤災害は、「①住居と就業の場所、②就業の場所から他の就業の場所への移動、③①の移動をする前
後に単身赴任者が自宅から住所である単身居住地へ移動するとき」を合理的な経路及び方法により行うことをいい、業務の性質を有するものは除くとされています。そうすると、自転車通勤が合理的な方法かどうかということになりますが、住居と就業場所の距離などにもよりますが、交通機関を利用しなかったことのみをもって、通勤災害が認められないとはいえないと思われます。

一方で、合理的な経路については、例えば、通勤経路の途中で、趣味のトレーニングジムに立ち寄る目的等で通勤を中断した場合は、経路を外れた時点から先については通勤災害に該当しなくなります。その点は社員に説明しておくことが必要です。

なお、この通勤経路の逸脱については、単身者が日常生活に必要なものを購入するために立ち寄る場合は、個別に認められれば、通勤が継続していたと判断される等の例外があります。


3. 自転車の個人賠償保険加入を確認する

自転車の個人賠償保険加入は、東京都、神奈川県、埼玉県等では、加入が義務づけられるようになっています。また、加入が義務付けられていなくても、努力義務になっている地域もあります。

では、社員が交通事故を起こして、他者に被害を加えてしまったとき、使用者が責任を問われることがあるのでしょうか。

これについては、個別の判断によりますが、社員が所有する自転車を通勤に加えて業務でも使用している従業員が事故を起こしたときは、会社に損害賠償責任が及ぶことがあります。事業主が、社員が所有する自転車を通勤のみに許可し、業務での使用は禁止していたならば、通勤時の従業員の事故に関して会社が損害賠償を負わないと考えるのが妥当と思います。

また、従業員が自分で判断して業務に私用自転車を使用していたとすると、日ごろから会社が「私用自転車は仕事で使わないこと」と指導していたかなどの状況を考慮して会社の損害賠償が判断されると思われますので、あいまいにならないように、きちんと指導をしておくべきと思います。

人事部門の実務については、
① 任意賠償保険に加入していることの確認
② 通勤経路
③ 安全運転の宣言
等を盛り込んだ自転車通勤申請書を作成し提出を求めることをお勧めします。


4. 通勤費について

通勤費については、多くの会社が、就業規則等で支給する基準を決めて支給しています。自転車で通勤する場合も、就業規則等で決められている支給基準があれば、それによって支給をすることになります。
一方で、公共交通機関を使用することを前提にして、定期券代を給与で支給するとして、自転車通勤を想定していなければ、個人的には、定期券を使う機会がない社員に定期券代相当を支給すると、実際にかかる費用よりも多く支給することになるため妥当でないと思います。
そのまま定期券代を支給するか、駐輪場代金程度の低額に見直しを検討する必要があります。

また、通勤費は、出勤日の多くを住居から事業所へ通勤することを前提にして定めた支給ルールになっていると思われますが、テレワーク等で通勤する日が大幅に減少した会社では、見直しをするところも出てきています。通勤費に代わって、テレワーク手当を新設する企業もあります。
ただし、通勤費を減額することで社員にとって不利益が起こらないように配慮することが必要です。実態を考慮して支給額の変更を検討してください。

 

 

【コンサルタントプロフィール】

写真_大関ひろ美


大関ひろ美
株式会社ブレインパートナー 顧問
三重県四日市市出身。

ワンズライフコンパス(株)代表取締役、ワンズ・オフィス社労士事務所 代表。1981年~ 三菱油化(現、三菱ケミカル)株式会社の人事部門に約9年間勤務。1992年社会保険労務士資格を取得(その後特定社会保険労務士を付記)。 1996年~ 外資系生命保険会社ほか勤務、北九州市嘱託職員として介護保険導入に携わる。2001年~ 社会保険労務士事務所を開所独立。
現在は、ワンズライフコンパス株式会社と併設するワンズ・オフィス社労士事務所の代表に就任。2006年パートアルバイト派遣の使い方ここが間違いです(かんき出版) 2013年~雇用形態別人事労務の手続と書式・文例、雇用形態別人事管理アドバイス(共著、新日本法規出版)

 

DATE : 2020/08/14

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