【人事管理】在宅勤務と通勤手当
在宅勤務を導入している企業から、今後も通勤手当を支給するか、支給するのであれば金額をどのように計算するのかと、相談を受けることがあります。これについては一律の取り扱いができず、在宅勤務の頻度等に合わせて各社実情に沿った変更をすることになります。
ところで通勤手当は、労働基準法で支払いが定められているものではありません。よって、企業が支給ルールを決めて賃金規程に定めて支払っていることになります。
1. 在宅勤務の見通し
現在、在宅勤務を導入している場合、この先もどれくらいの頻度で続けていくのかによって、通勤手当支給基準を見直す必要があるのかどうかがわかれると思います。
緊急対応として在宅勤務を導入した企業で、やってみるとメリットが多くあって今後も継続すると決めた場合は、約半年経過しましたので、通勤手当の見直しを検討するころだと思います。
一方で、在宅勤務は当面の措置で、しばらくしたら出社勤務が通常になる会社では、以下のように通勤手当支給基準を変更する実務は煩雑になりますから、一時的に変更することは得策でないように考えます。
2. 賃金規程の支給基準を確認する
まず、通勤手当支給基準が、賃金規程にどのように定めているのかを確認が必要です。多くの企業は、「公共交通機関を使ったときの通勤にかかる費用については、会社が合理的と認めた経路について金額を定めて支給する」というような規定をされていると思います。こうした場合は、在宅勤務によって公共交通機関を使う出社がない日については、通勤手当支給をやめることに合理的な説明ができます。
一方で、極端な規定例を挙げてみますが、「社員には、通勤手当を毎月定額で支給する」としている場合は、支給をすることが前提になっているように読み取れるため、出社をしない在宅勤務日について、通勤手当を支給しないことに変更するのであれば、社員に丁寧に説明をして合意を得ることと、賃金規程の改定も必要になります。
3. 新しい通勤手当支給基準
在宅勤務を長期的に取り入れる会社では、通勤手当支給基準を会社に出社した日だけ支給する実費払いに変更することが選択肢の一つになります。しかし、月間所定労働日数の多くを出社し、在宅勤務が数日だけになる場合は、実費払いのほうが定期券代支給よりも金額が増えることがありますので、そのまま定期券代相当を支給することが妥当です。よって、何日出社をしたら実費払いにすることが妥当なのかを試算して判断することになります。
また、通勤手当を実費払いに変更するとき、もう一点考慮することは、通勤手当の支給方法の違いによる変更時期の検討です。支給方法には、2通りあり、6か月や3か月の定期券を買ってもらうことを前提にして、例えば6か月ごとに前払いをする方法と、毎月当月支給にする方法です。
前払いをしている場合は、多くの社員がすでに定期券を購入しているため、支給した対象期間が過ぎたときから、実費払いの後払いにすることになります。
整理すると、定期券代をまとめて支給することは、前払いで、出社実績に応じて支払う場合は後払いをしているため、いつからどのように変更するか、または、一時的なものであれば変更をしないでおくのかを決定することになります。
さらに、検討した結果、通勤手当を廃止して在宅勤務にかかる通信費や環境整備費を考慮した在宅勤務手当等の支給を始める会社もあるようです。
4. 通勤手当は社会保険料等の賃金にあたる
ご存じのとおり、通勤手当は社会保険の標準報酬を決定する賃金に含まれます。現在の行政の解釈等においては、通勤手当として支給する金額は、前払いとしても、出社実績の後払いにしても、標準報酬を決定する賃金に含まれますので、ご留意ください。
【コンサルタントプロフィール】
大関ひろ美
(株式会社ブレインパートナー 顧問)
三重県四日市市出身。
ワンズライフコンパス(株)代表取締役、ワンズ・オフィス社労士事務所 代表。1981年~ 三菱油化(現、三菱ケミカル)株式会社の人事部門に約9年間勤務。1992年社会保険労務士資格を取得(その後特定社会保険労務士を付記)。 1996年~ 外資系生命保険会社ほか勤務、北九州市嘱託職員として介護保険導入に携わる。2001年~ 社会保険労務士事務所を開所独立。
現在は、ワンズライフコンパス株式会社と併設するワンズ・オフィス社労士事務所の代表に就任。2006年パートアルバイト派遣の使い方ここが間違いです(かんき出版) 2013年~雇用形態別人事労務の手続と書式・文例、雇用形態別人事管理アドバイス(共著、新日本法規出版)
DATE : 2020/10/12