【人事管理】テレワークの労働時間管理
1. 労働時間の適正な把握義務
労働時間の把握や記録については、労働基準法、ガイドライン等複数のものに定めや解釈があります。
まず、使用者は始業・終業時刻を確認して、これをもとに何時間を働いたかを把握・管理する(労働時間の適正な把握のために資料者が講ずべき措置に関するガイドライン)ことが求められています。これは、労働基準法が労働時間、休日、深夜業等について規定を設けているため、これらを遵守するために、いつ何時間働いているか等を把握する必要があるとされています。
そして、これらの労働時間の記録書類は、「その他の労働関係に関する重要な書類」に該当するため、保存期間は3年と定められています(労働基準法第109条)。
労働基準法で定められる様々な労働時間制度は、テレワークであっても運用が可能で、それぞれの事業所で実態にあった労働時間制度を用いる必要があります。ただし、労働時間の把握と管理については、テレワークの特有の中抜け時間を把握するか否かという選択肢があります。これについて、新しいガイドライン(テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン。以下テレワークガイドラインといいます。)から考えてみたいと思います。
2. テレワークに特有の中抜け時間を管理するか
社員が在宅テレワーク勤務をしていると想定すると、プライベート空間で仕事をしているため、一定程度の時間業務から離れることがあります。先に記載のとおり労働基準法上は、使用者は始業及び終業時間を把握していればよいため、こうした中抜けの時間については、把握することとしても、把握せずにおいても、いずれでもよいことになります。
では一例として、テレワーク中の勤務時間の記録をメール報告にしている場合、終業時刻に行うメール報告の時の管理方法として、次の2通りが考えられます。そして、中抜け時間の取り扱いは、あらかじめ就業規則等に定めておくことが重要です。
① 中抜け時間を把握する場合
始業と終業時刻に加えて中抜け時間を休憩時間として報告させ、就業時刻を繰り下げたり、時間単位の年次有給休暇を取得したりしてもらう。
② 中抜け時間を把握しない場合
始業と終業時刻のみを報告させ、あらかじめ決められた休憩時間を除いた時間全部を労働時間として扱う。
では、②の中抜け時間を把握しない場合について、運用面の留意点をもう少し考えたいと思います。
テレワークは、もともと場所や時間に影響されない働き方として提唱されていることから、ちょっとした中抜け時間を把握せずに、社員の仕事と生活のバランスを目指した働き方が実現できれば、社員の満足度が向上し生産性が上がることが期待できるものと思います。また、子育てや家族の介護、社員自身の通院治療等と両立しながら多様な状況の人が仕事と生活を両立できるものとされています。
よって、中抜けした時間があっても、効率よく仕事を進めて結果を出せれば、何が何でも所定労働時間を働いてもらうことを想定しないという管理に変更することも選択肢のひとつです。
問題になるとすると、所定労働時間の全部を労働時間に充てることができ、中抜けしない社員から不満が起こることではないでしょうか。小さい不満も重なると無視できません。
実際は、だれでも職業生活の期間に子育て・介護・治療等を行う立場になることが想定でき、たまたま現在において、中抜けなしで働いているにすぎないかもしれません。しかしながら、「将来あなたにも起こりうる生活スタイルかもしれない。」という説得だけでは、なかなか腑に落ちません。
中抜け時間が何時間までならば、「報告や時間単位年次有給休暇等を取得する必要がない。」というルールを定めるとともに、根本的な解決としては、人事評価制度を見直すことも必要です。
テレワークガイドラインでも人事評価については、テレワークが非対面の働き方であるため、業務遂行状況や成果を出すまでの能力を把握しづらい側面があることから、評価に対して共通の認識を持つ機会をもち、具体的に見える化した評価基準を設計するなどの工夫が求められるとしています。一度目を通していただければと思います。
引用したガイドラインの詳細は以下のページで確認できます。
テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン
https://www.mhlw.go.jp/content/000759469.pdf
労働時間の適正な把握のために資料者が講ずべき措置に関するガイドライン
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11200000-Roudoukijunkyoku/0000149439.pdf
【コンサルタントプロフィール】
大関ひろ美
(株式会社ブレインパートナー 顧問)
三重県四日市市出身。
ワンズライフコンパス(株)代表取締役、ワンズ・オフィス社労士事務所 代表。1981年~ 三菱油化(現、三菱ケミカル)株式会社の人事部門に約9年間勤務。1992年社会保険労務士資格を取得(その後特定社会保険労務士を付記)。 1996年~ 外資系生命保険会社ほか勤務、北九州市嘱託職員として介護保険導入に携わる。2001年~ 社会保険労務士事務所を開所独立。
現在は、ワンズライフコンパス株式会社と併設するワンズ・オフィス社労士事務所の代表に就任。2006年パートアルバイト派遣の使い方ここが間違いです(かんき出版) 2013年~雇用形態別人事労務の手続と書式・文例、雇用形態別人事管理アドバイス(共著、新日本法規出版)
DATE : 2021/05/06