【人事管理】研修時間に賃金の支払いが必要なとき
社員が研修を受ける方法が増えて、会社が社員に研修を受けるように指示するとき、賃金を払うかどうか迷うことがあります。集合研修・ウェブ研修・社内教育・資格試験のための学習・一般的な語学会話セミナー等、様々な形態がありますが、研修等の受講を命じたときで、その行為が労働時間にあたると判断するならば、賃金の支払が必要です。それに加えて、場合によっては割増賃の支払いが必要なケースがあります。
あいまいにしたまま受講を指示していると社員のやる気も起こりません。正しい賃金を支払ってこそ、研修等の効果が得られるものととらえて、誤りのないようにしましょう。
1.労働時間に該当するか否かは指揮命令下に置いているかどうか
研修や教育訓練を受けさせる社員を使用者の指揮命令下に置いていると評価できるかどうかで、労働時間に該当するかどうかを判断します。
では、指揮命令下にあるかどうかを行政がどのように考えているかを見てみると「使用者の指揮命令下に置かれていると評価されるかどうかは、労働者の行為が使用者から義務付けられ、又はこれを余儀なくされていた等の状況の有無等から、個別具体的に判断されるものであること。」(労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン)というものがあります。
ガイドラインでは労働時間になる個別の事例として「参加することが業務上義務づけられている研修・教育訓練の受講や、使用者の 指示により業務に必要な学習等を行っていた時間」と明記しています。
具体的な実例を考えてみると、参加が義務付けられているもの・参加実績が人事評価に反映されることになっているもの(又は参加しなかった場合にマイナス評価につながるもの)・受講レポートの提出が義務付けられており人事評価にも反映されるものについては、受講時間が指揮命令下にあると判断されるケースの代表例です。
また、受講費用が会社負担である場合や受講の内容が業務に関連しているものは、労働時間となりやすいもののひとつで、受講が義務付けられているかどうかも併せて総合的に考える判断要素になります。
2.ウェブ研修をいつどこで受けさせるか
社外の研修機関が実施するセミナーに社員が参加する時、コロナ以前は、社外の研修会場に集合して受講していたと思います。日程については、10:00から17:00のように本来の所定労働時間の時間帯に収まるように設定されており、日々の労働時間内に受講できるケースが多かったと思います。
しかしながら、ウェブセミナーであって視聴できる受講期間が一定期間有効で、中断も自由に視聴できるようなものであると、社員は仕事が終わって所定労働時間後に受講しているケースもあるのではないかと思います。
この場合、研修受講等が所定労働時間以外に該当するならば、時間外労働になります。または、所定休日や法定休日にあたるのであれば、それぞれの割増賃金の支払いが必要です。
ウェブ研修の受講等を義務付けるときで、労働時間とするならば所定労働時間内に受講をするか、時間外労働になる場合は事前に申請をして許可を得たうえで受講し、会社は割増賃金を支給するという手順が必要だと考えます。
また、テレワーク中であれば、各自がウェブ研修を集中して受講しやすい時間や場所を設定できるのですが、出勤しているとき所定労働時間内にデスクでウェブ研修を受講するのは、集中して受けられるとはなかなか想定がしづらいものです。
会議室等を使って、どこで、いつ受講することが効果的なのかを事前によく検討することが必要だと思います。
【コンサルタントプロフィール】
大関ひろ美
(株式会社ブレインパートナー 顧問)
三重県四日市市出身。
ワンズライフコンパス(株)代表取締役、ワンズ・オフィス社労士事務所 代表。1981年~ 三菱油化(現、三菱ケミカル)株式会社の人事部門に約9年間勤務。1992年社会保険労務士資格を取得(その後特定社会保険労務士を付記)。 1996年~ 外資系生命保険会社ほか勤務、北九州市嘱託職員として介護保険導入に携わる。2001年~ 社会保険労務士事務所を開所独立。
現在は、ワンズライフコンパス株式会社と併設するワンズ・オフィス社労士事務所の代表に就任。2006年パートアルバイト派遣の使い方ここが間違いです(かんき出版) 2013年~雇用形態別人事労務の手続と書式・文例、雇用形態別人事管理アドバイス(共著、新日本法規出版)
DATE : 2021/12/23