【人事管理】採用要件にワクチン接種を追加できるか
新型コロナウイルス感染者数が増加しています。人と接する職種や出勤した時の職場同僚への影響を考えて、ワクチン接種済みであることを採用要件に加えることができるでしょうか。
1. ワクチン接種要件が合理的かどうか
ワクチン接種を求める合理的な理由があるのであれば、その理由を応募時にあらかじめ示して募集を行うことが考えられます。ただし、慎重に判断する必要があります。
ワクチン接種については、当コラム記載時点で、未接種か2回目接種が完了しているか、3回目接種を予定しているかなどを採用要件に入れることができるかどうかという疑問がわきますが、この問題については、厚生労働省が同じようなQ&Aを用意しており、採用する人に個別判断をして、接種済みであることを採用条件にすることは、その理由が合理的であるかを判断して募集要件にすることが望ましいとしています。
厚生労働省 新型コロナウイルスに関するQ&A10その他_問13は次のとおり記載しています。
Q: 採用時に新型コロナウイルスワクチン接種を条件とすることはできますか。
A: 「新型コロナウイルスワクチンの接種を受けていること」を採用条件とすることそのものを禁じる法令はありませんが、新型コロナウイルスワクチンの接種を採用条件とすることについては、その理由が合理的であるかどうかについて、求人者において十分に判断するとともに、その理由を応募者にあらかじめ示して募集を行うことが望ましいと考えます。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/dengue_fever_qa_00007.html#Q10-13
2. 病歴やそれに準ずるものは要配慮個人情報
次に、採用時に考えなければならない関連事項を見てみると、個人情報保護法があります。この法律で慎重な取り扱いを要する個人情報は、「要配慮個人情報」と分類されており、本人の同意を得ない取得を原則として禁止しています。
「要配慮個人情報」としているものには、「病歴」に準ずるものがあり、「診療情報、調剤情報、健康診断の結果、保健指導の内容、及び障害、ゲノム情報」があり、前段の診療情報については、個人の健康状態が明らかとなる情報で病気を推定又は特定させる可能性があるものとされています。ワクチン接種履歴は、これらに100%該当するものではありませんが、準ずる情報であるとされる可能性があります。
もし、「要配慮個人情報」を取得するだけの合理的な理由があるのであれば、本人の同意を得て直接取得することが考えられます。
3. 社会的差別となるおそれのある個人情報
では、公正な採用判断という側面から考えると、どうでしょうか。
採用応募者の適正・能力に関係ない事項を尋ねることは、就職差別につながる恐れがあります。個人情報を保護する観点から、社会的差別の原因となるおそれがある個人情報などについては、原則として収集が求められていません。(平成11年労働省告示第141号)
ワクチン接種を受けていない人の中には、体調によって副反応の恐れがあって医師からリスクがあると言われている人等が含まれており、本人に責任のないことで採用につながらないことは、応募の機会を奪ってしまう恐れがあります。
一方で、事業主は労働契約法5条で、労働者のその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。として、安全配慮義務を負っています。
これらのことを考慮しても、ワクチン接種を求める合理的な理由があるのであれば、その理由を応募時にあらかじめ示して募集を行い、面接時には、理由を示したうえで本人の同意を得て、接種履歴を尋ねることが考えられます。
【コンサルタントプロフィール】
大関ひろ美
(株式会社ブレインパートナー 顧問)
三重県四日市市出身。
ワンズライフコンパス(株)代表取締役、ワンズ・オフィス社労士事務所 代表。1981年~ 三菱油化(現、三菱ケミカル)株式会社の人事部門に約9年間勤務。1992年社会保険労務士資格を取得(その後特定社会保険労務士を付記)。 1996年~ 外資系生命保険会社ほか勤務、北九州市嘱託職員として介護保険導入に携わる。2001年~ 社会保険労務士事務所を開所独立。
現在は、ワンズライフコンパス株式会社と併設するワンズ・オフィス社労士事務所の代表に就任。2006年パートアルバイト派遣の使い方ここが間違いです(かんき出版) 2013年~雇用形態別人事労務の手続と書式・文例、雇用形態別人事管理アドバイス(共著、新日本法規出版)
DATE : 2022/02/14