【人事管理】試用期間の解雇について
今回のテーマは春の定期採用に関連して試用期間の解雇を取り上げます。
企業が正社員を採用する時は、新入社員の適性や性格、職業能力を判断する期間として、1ケ月から6ケ月程度の試用期間を設けることがあります。しかしまれに、試用期間の途中や試用期間が終わったときに、残念ながら正社員にふさわしくないと判断して、本採用をしたくないと考えることがあります。では、試用期間中の解雇は認められるのでしょうか。
1.試用期間の解雇の考え方
多くの企業等は、試用期間とは、本採用するかしないかの判断が許される制度であってほしいと考えていると思います。
しかし、試用期間中の解雇であっても、「解雇をする相当の客観的に合理的な理由が存在し、社会通念上相当と認められたとき」のみ認められます。
また、たとえ試用期間中でも、入社後14日を超えている場合は、労働基準法が定める解雇予告期間をおくか解雇予告手当を支う手続きも必要です。
2.判例から見る試用期間中の解雇
「試用期間には採用決定時に判らなかった人物を知る期間という意味がある限り、試用期間の解雇は、本採用後の通常の解雇よりも広い範囲で解雇の自由を認める。」とした裁判例があります(三菱樹脂事件・最大判昭和48年12月12日)。
この裁判例では、労働者が採用の選考時に会社に虚偽の申告をしたとこが、試用期間中にわかったために解雇をした事案でした。「会社は、採用を決める時にした調査では事実を知ることができず、試用期間中の勤務状況から事実を知った場合で、そのような者を引き続き雇用することが適当でないと判断し、客観的に妥当と認められる場合は、解雇が許される。」としました。
これにより、試用期間をおく趣旨や目的に照らし合わせて、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当な場合に解雇が許されると考えられます。
また、一方で、新入社員にとってみれば、試用期間として勤務しているときは、その企業で本採用であろうという期待があることと、他の企業へ勤務する可能性を放棄していることになります。
したがって試用期間の解雇は慎重に判断するべきで、客観的に合理的な理由があり社会通念上相当な場合に限るとしている点に注意が必要です。
*参考文献1.2.ともに労働法実務講義 大内伸哉著 日本法令
3.労働契約と就業規則の解雇理由に該当するか
次に、就業規則等との関係を見てみると、試用期間中に解雇をする場合であっても、本採用後の解雇と同じように、就業規則の解雇事由に該当するかどうかを慎重に判断しなければいけません。
そして、解雇の理由は、退職に関する事項ですから、就業規則に記載しなければいけない項目です。また、労働契約を結ぶ際に、書面によって明示するか、就業規則の該当部分を差し示して提示しなければならない労働条件のひとつです。
これらのことから、採用時点で示した解雇事由に、試用期間中の解雇が記載してあって、その解雇事由に該当するかどうか判断します。
4.解雇の手続き
解雇の理由が妥当だと認められる場合であっても、少なくとも30日前に解雇を予告するか、30日分以上の平均賃金を支払う解雇手続きが必要です。または、平均賃金を何日分か支払って、その日数分の解雇予告期間を短縮する解雇の手続きを取らなければいけません。試用期間中でも、採用後14日を超えている場合はこの解雇手続きが必要です。
5.解雇を回避するために改善をする指導・教育を行ったか
日本の雇用は新規卒業者に限って考えれば、定期採用をして定年まで長期に雇用する形態が続いたことや、専門職種の技術者を即戦力として採用することはまだまだ稀なケースです。ですから、採用後に職業能力を教育するのは、企業も責任を負っていると考える傾向があります。
こうしたことから実務面では、予定した試用期間で不足する場合は、適切な範囲で試用期間を延長して教育をして成長を促す取り組みが必要ですし、解雇が争いになったときに備えて、指導や教育を行った記録を残しておくことも重要です。
【コンサルタントプロフィール】
DATE : 2017/04/25