【賃金(報酬)制度】固定残業代制と求人広告について
今回のテーマは固定残業代制と求人票を取り上げます。
企業が固定残業代制を導入している場合において、求人広告等に労働条件を記載するときは、割増賃金の計算方法等を具体的に明示することとされています。ですから、ハローワークに出す求人票や、求人募集のウェブサイトまたは求人雑誌等には、具体的な計算方法を掲載することになります。
1.固定残業制と求人票など
青少年の雇用の促進等に関する法律の第7条を根拠とし、第4条、第6条の努力義務に関する必要な措置として交付された告示(以下は、青年雇用促進法にかかる告示といいます。)によると、固定残業代制がある企業が、求人広告等に労働条件を記載するときは、割増賃金の計算方法等を具体的に明示することとされています。
さらに、職業安定所を通じて求人票を申し込む際には、厚生労働省は、求人申込時の賃金条件として、「固定残業代」等が含まれる場合は、
「定額的に支払われる手当」欄に「固定残業代」等を記入する場合は、その関連事項を記載するために設けられた「その他の手当等付記事項」欄に、
◆「時間外手当は時間外労働の有無にかかわらず固定残業代として支給し、○○時間を超える時間外労働分は追加で支給」などのように「固定残業代」等が時間外労働の有無にかかわらず固定的に支給されるものであることと、超過分が追加で支給されることを明記すること。
としていますから、職業安定所への求人票提出時にも注意が必要です。
2.固定残業制と労働基準法
「残業手当の計算が面倒なので、実際の残業時間にかかわらず業務手当として一律で支給したいと考えて、固定残業制を検討しています。どのように設計したらよいでしょうか。」というような相談をうけます。行政のリーフレットを見てみますと、次のような解説があります。
少なくとも、一律支給する場合には、業務手当が残業手当の定額払いであることを就業規則等に明記することが必要です。
また、実際の残業時間から計算した手当より「業務手当」が低い場合はその不足額も合せて支払わなければなりません。
なお、実際の残業手当と業務手当の過不足を翌月に繰り越して相殺することはできません。
(以上 東京労働局作成リーフレット 「労働基準法 割増賃金編」より)
また、先に照会した青年雇用促進法にかかる告示は、割増賃金の計算方法等を具体的に明示することが必要としており、在職者にも同じように明示が必要と考えることが妥当でしょう。これは採用に関する告示とどまっていますから、法による規定というレベルではなく、固定残業代の適法性の判断を左右するものではありませんが、行政の指導基準になりえると承知しておきたいことのひとつです。
そして、労働基準法では、固定残業制について具体的に定めたものはないのですが、労働基準法第37条に定められた割増賃金の支払い義務に抵触をしない運用をすることは言うまでもありません。制度の設計や運用によっては、法令に満たないものも見受けられます。適切なものかどうかについては、個別的かつ総合的に判断をされることとなりますから、厚労省のウェブページ等も参照してください。
3.固定残業代のまとめとして
固定残業代の額が法定割増賃金を下回らないかを誰もが判断できるようにするために、どういう手当名称に、時間外割増、休日割増、深夜割増のうち、何の手当が含まれているのか、特に労働者が判断できるようなものになっていることが必要です。
実際に勤務した結果、法定割増賃金を固定残業代が上回った場合は、差額を支払うこと、またそれを事前に明示しておくことが必要です。
このほかに 毎月の給与明細に固定残業代に含まれる時間外労働時間数と金額を明示して社員に渡すことに言及したものがあります。これは、裁判官の意見として、「毎月の給与」で固定残業代に含まれる「支給対象の時間外労働時間数と残業手当の額」を明示がされていなければならないだろう(テックジャパン事件 最高裁一小 平24.3.8判決)としたものです。
効率よく仕事をして残業を削減した労働者に対しても一定金額の残業手当を払うことは、適法なインセンティブとなりえますが、労基法に抵触するような不当な運用も見られるので注意が必要です。
以上
【コンサルタントプロフィール】
DATE : 2017/05/15