【人事管理】通勤途中で転倒したときの医療費について
会社に出勤するときや帰宅する途中で、ただ転倒しただけでも状況によっては骨折などの大怪我になることがあります。筆者の関係先では、今年は数件の転倒事故がありました。治療にかかる医療費や休業が必要になったときの補償は、どのようになるのでしょうか。
1.スマホ歩きは重大な過失になる可能性がある
道路や駅の構内でスマホの画面を見ながら歩行していている人をよく見かけます。スマホ歩きと言うそうです。もしスマホ歩きをしていたことが原因で、前方をよく見ていなかったために転倒した場合は、会社と住居の往復の間に起きた転倒であっても、労災保険の通勤災害が適用にならない可能性があり、給付されるかどうかは、労働基準監督署長が個別に判断をすることになります。
労災保険では、労働者が重大な過失によって負傷をした場合は、保険給付の全部又は一部を行わないことになっています(労働災害補償保険法第12条の2の2 2項)。よって、スマホの画面を見て足元や前方の障害物を見ていなければ、転倒するだろうと常識ではわかっていることで、それは本人の重大な過失が引き起こした事故だと判断されたときには、給付を受けられない可能性があります。
このような場合は、健康保険法で保険給付を受けることになります。尚、怪我で健康保険の各種の給付を申請する場合は、「負傷原因届」を届け出る必要があります。たとえば、協会けんぽの書式であれば、労災保険の給付の対象にならなかったことを記載する欄がありますので、事実関係を記載しなければなりません。
2.仲間の忘年会後に転倒しても通勤災害の対象にならない
労働者が、住居と就業の場所の往復をしているとき、転倒などで怪我をしてしまっても、忘年会等の私的な会食に立ち寄った後に起きた転倒などの怪我は、労災保険の通勤災害になりません。この場合の判断においては、飲酒の有無等で判断されるのではなく、そもそも通勤に必要な経路を外れてしまうと、その後の怪我等は対象にならないことになっているからです。
尚、会社の指示で出席した接待の会食から帰宅する途中に怪我をした場合は、接待の会場を就業場所とみなすかどうかなど、労働基準監督署長が個別に判断をすることになると考えます。
3.通勤災害になるケース
以上通勤災害にならない可能性がある例を紹介しましたが、たとえば、駅の階段でうっかりつまずいて、顔や膝に擦り傷を負ってしまったケースは、通勤災害として労災保険の給付の認定がされる可能性が大きいです。
基本的には、就業に関して次のような移動中に被った負傷等は通勤災害の給付対象になります。
(1)住居と就業の場所との間の往復
(2)就業の場所から他の就業の場所への移動
(3)住居と就業の場所との間の往復を逸脱・中断した場合のその行為に先行し、又は後続する住居間の移動(移動の経路をはずれる又は、中断した場合には、はずれた間又は中断の間とその後の移動は「通勤」とはなりません。ただし、経路をはずれた又は中断が日常生活上必要な行為であって、厚生労働省令で定めるやむを得ない事由により行うための最小限度のもの(単身者が生活用品の購入のために店に立ち寄る等)である場合は、合理的な経路に戻った後等は通勤となります。)
このように、通勤災害とされるためには、その前提として、労働者の就業に関する移動が労災保険法における通勤の要件を満たしている必要があります。
単に路上で転倒をしただけでも、重大な怪我をして休業を余儀なくされたケースもありましたので、日頃から通勤の安全を注意喚起しておくことが肝要だと思います。
【コンサルタントプロフィール】
DATE : 2018/12/10