【人事管理】退職の申出と退職日
このところ転職市場が好調なようです。筆者の関与する企業において、昨年末は、いつもより転職をされた人が多かったように感じます。実際に平成30年10月の有効求人倍率は、1.62倍で高止まりしています。今回は社員が退職を申し出てきたとき、企業はどのように対応をしたらよいのかを考えたいと思います。
1.退職とは
「実は私、会社を辞めたいんです。」社員からそのような話をされることがあります。おそらく、その社員は前から考えていたのでしょうが、上司や人事部門は、「辞めたい。」と切り出されると困惑することが多いように思います。このように、社員から退職の申し出ることは、社員から労働契約の解約を申し出た状態です。
退職とは、法にあてはめるとどのように解釈したらよいでしょうか。
期間を定めずに労働契約をしている場合は、労働者は2週間の予告期間をおけば、いつでも労働契約を解約できます(民法627条1項)。ただし、月一回給与を払う月給制で欠勤等をしても一切控除をしない完全月給制の場合には、前月の前半に申し出ると、その申し出の翌月以降に解約できることになっています(民法627条2項)。
一方で、期間を定めて有期労働契約をしている場合は、本来は期間の満了日まで解約ができませんが、一方から申し出があって話し合で解約(退職)日を決めることになります。
このような社員からの退職は民法では、退職理由はいりません。どんな理由でも構わないのです。ただし、雇用保険の資格喪失で離職票発行が必要な時は、理由を書いた退職願を添付する必要がありますから、実務上は退職願に「自己の都合によって退職します。」という程度の退職理由を書いて出してもらい、退職理由を把握しているケースが多いです。
一方で、使用者である会社側からの労働契約解約の申し出は、解雇になります。
これには、労働契約法20条の決まりがあるため、解雇をするには少なくとも30日以上をおき、相当で合理的な理由がなければ労働契約を解約できません。その点で、社員からの退職を申し出ることと比較すると、圧倒的な違いがあります。
2.就業規則と民法の関係
ここまでを読まれて、少し違和感があるかもしれません。
それは、多くの会社が自己都合退職する場合は、「〇〇日以上前に申し出る必要がある。」というように就業規則に定めているからです。ですから、おおむね30日から60日前に申し出て、なおかつ退職日までに引継ぎを終えたことを上司が確認する必要があることも定めていれば、一定の期間より前に申し出て引継ぎを完了して退職しているでしょう。よって、民法が2週間前に申し出れば退職できると定めていることは違和感があると思います。
使用者は、民法には、前述のように「労働者は2週間の予告期間をおけばいつでも契約を解約できる」とあるけれども、「民法よりも就業規則を優先して〇〇日後でなければ退職ができない。」と言いたいところですが、民法よりも就業規則が優先されるという決まりはありません。
3. 損害賠償
そこで、使用者と社員が良好な関係であれば、就業規則に自己都合退職の定めがある場合は、社内ルールを定めた就業規則に沿って行動することが通常であり、加えて関係先へ迷惑が掛からないようにきちんと業務の引継ぎを終えられる日程で、使用者と社員が話し合って退職日を決めるケースがほとんどです。
なお、もし就業規則の自己都合退職ルールで定めた退職日までの期間を待たずに退職をする場合で、引継ぎが完全に終わらないことによって、企業が損害を被った場合は、企業から退職者に対して損害賠償の請求ができる余地があります。
最後に、退職を申し出た社員には、本当に退職の意思を固めているのかを確認することをお勧めします。後任者を採用する手配をしたとたんに、退職を取り消したいと言われては、大変困ったことになります。
しかしながら、退職を思い直すように説得をするかどうかは、社員の状況によって対応が異なると思います。転職を考えて退職を申し出るケースの多くは、転職先で入社内定を得ており、今更説得をしても、今後の継続勤務はうまくいかないと思われます。また、これまで幾年かは勤務していた社員と退職時期に関してもめることは互いにメリットが少ないでしょうから、円満に退職ができるように話し合って退職日程を決めたいものです
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【コンサルタントプロフィール】
DATE : 2019/01/15